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人でなしの恋 江戸川乱歩




短編集で全て大正末期の作品から成っています。当時の挿し絵と巻末に本人の解説もついています。


以下収録作品のタイトル、あらすじ(なるべくネタバレ無しで書きます)、感想です。
★は10★満点。


『百面相役者』

僕はある日先輩のRを訪ねると場末の芝居小屋に連れていかれた。そこには百面相役者役者がおり、その神業的な変身ぶりに驚愕した。しかしRは百面相役者はとある一連の事件と関係していると言うのだった。


着想は面白かったけれどオチがあまりにもお粗末と言うか肩透かし。
本人も拙作と評しています。でも百面相役者の演技を見て興奮している僕の描写は百面相ぶりが目に浮かぶようでそのあたりは流石だなあと。
個人的に好きだったところはRが傾倒している分野の話で平田篤胤、スウェデンボルグ、雨月物語(上田秋成)などが出てきたところですね。それ系が好きな私はワクワクしました😍(笑)

★★★


『一人二役』

遊び人の男が退屈しのぎと好奇心から妻に奇想天外な一人二役を演じる。その意外な結末とは?


本人の解説に「またしても私の好きな一人二役である。」とありますが現実的には有り得ない内容なので盛り上がりませんでした。笑ってしまうような意外な結末なので人間の心理の妙を描きたかったのかなと?

★★



『疑惑』

大酒呑みで家族にもモラハラな迷惑親父が殺された。犯人は誰なのか?


精神分析探偵小説だそうです。主人公の青年の葛藤はいいのですが如何せんトリックが説得力不足です。。本人も「意あって力足らぬ」と評しています。でも着想はやっぱり面白い。

★★


『接吻』

新婚の夫はある時愛しい妻が誰かの写真に接吻しているのを目撃してしまった。なんたることか!一体全体誰の写真だ?!


唯一のユーモア小説で肩の力を抜いて読めますが最後にニヤリとさせられるところは流石です。

★★★


『踊る一寸法師』


サーカス団の道化役者、一寸法師の緑さんは皆のいじめられ役だった。ある時仲間内の宴会で緑さんと美人玉乗りのお花さんで余興(かくし芸)をやることになった。緑さんの熱演に仲間は拍手喝采だったが。。。


この話が一番インパクトがありました。
タイトルの通り一寸法師が踊る光景があるのですがその描写が秀逸です。正に映画のワンシーン(名シーン)の様です。
ネタバレになるので何も言えませんが一言で言うならぶっ飛んでます
(; Д)゚ ゚

解説の中の乱歩がこの原稿を横溝正史に朗読して聞かせたという逸話が印象的です。

★★★★★★★★



『覆面の舞踏者』


「私」は有料制(結構高い)有閑クラブ主催の覆面舞踏会に参加した結果クラブを退会しました。その理由をお話しします。



これは実際にありそうな話かもしれないなあと。この話の様な知人の体験談を聞いたことがあります(覆面舞踏会に行った話ではないけれど)。

舞踏会の描写で真暗闇で大きな柱も複数ある中で踊るのが非現実的に思いました。

この話を一言で言うなら
( ´゚д゚`)アチャーですね(笑)。

★★★


『灰神楽』

殺人を犯してしまった男が事故に見せかける為に行った偽装工作。


黙殺された(不評だった)作品と本人が書いていてその理由としてこれは本格もので私の妙な持ち味が少しも出ていなかったからだろうとありますが偽装工作の内容がピンと来ず盛り下がりました
m(_ _)m タイトルはナイスです👍




『モノグラム』

昔憧れていた女性の遺品(手鏡)に隠されていたモノグラムにまつわるエピソード。


モノグラムとは「二個以上の文字を一字状に図案化したもの」(広辞苑より)。
手鏡の目立たない部分にひっそりと記されていたモノグラム。なんてロマンチックな話なんでしょうと思いきやこれまたびっくりな結末😲概して人生ってこういうものなのかも(-_-;)


この本の中で唯一ロマンチックな部分のある作品で且つシニカルでもあり独特の趣があって好きでした。


蛇足ですがこのお話は今野勉著『鴎外の恋人 百二十年後の真実』を思い出しました。NHKで同タイトルのドキュンタリーも放送されたものです。 鴎外の埋もれた遺品とされる刺繍でモノグラムが施されたレース(ハンカチ?)を手がかりに『舞姫』のヒロイン、エリスのモデルとされる鴎外のドイツ時代の恋人エリーゼが誰だったのかを辿るという内容です。
因みにこのお話は六草いちかさんのエリーゼに関する著作発表後は鴎外とエリーゼのロマンス及び舞姫ファンに単なる創作と一蹴されている様ですがそれはさておきこの番組を見た時モノグラムに想いを込めるというのは何とも風流だなあと思いました。

★★★



『人でなしの恋』


京子は19歳で地元の名士の家へ嫁いで間もなく夫の自分への愛は偽りだと気づく。ある夜夫が土蔵の中で女性と密会していることが判明。しかし夫と女性の会話は密かに聞こえるものの女性の正体は杳として知れないのだった。



映画や舞台化もされている有名作品らしいですが私はオチを知らなかったので読むまで知りたくないと思っていましたが迂闊にも読者レヴューを見てしまいそこにあった「⚪⚪愛」というたった一言で分かってしまいがっかりでした。
m(_ _)m
あれは反則です。無しです🙅


それでも感動しました。とても耽美です。表題作だけあって佳作だと思いました。
何と言っても京子の

「(夫の密会相手は)泉鏡花さんの小説に出てくるような、夢のように美しい方に違いないのでございます。」

この台詞だけで鏡花ファンの私は満足してしまいました




☆☆ネタバレ注意☆☆

京子の夫が密会していたのは何かは言わないけど要するに人間ではないのです。
自分の愛する人の最愛の対象が自分以外だったらそれが何であろうとも悲しいけれど特に生身の人間以外のものだったら勝ち目は無いと私は思います。よく死んだ人には敵わないと言いますよね。美しい思い出だけが残っていてそれは永遠に変わらないから。映画『雨月物語』『チャイニーズ・ゴースト・ストーリー』を見て思いませんでしたか?!あんなに美しくミステリアスな人と出逢ってしまったらそりゃ魂も売るわなと。
京子の夫の場合相手は死霊ではないですがそれでも状況は同じだなと。

そういう恍惚の愛の話でした。本人はいいけど周りには確かに地獄ですね。

なんでもこの作品は編集者にもファンにも不評だったそうですが乱歩自身は気に入っていた様です。

★★★★★★


『木馬は廻る』


今年五十幾歳の格二郎の仕事は木馬館のラッパ吹き。彼の唯一の楽しみはお冬(木馬館の切符切り。十八歳。)の存在。格二郎には古女房と三人の子供がいてお冬とは恋というには年が離れすぎているし実際単なる同僚だがそれでもお冬が愛しい。格二郎は貧しいお冬に彼女が欲しがっている流行りのショールを買ってやりたいがそんな金がある筈も無い。そんなある日木馬館でちょっとした事件が起こり。。。

格次郎の哀愁を描いたお話。


このお話はパトリス・ルコントの映画の様だと思いました。格二郎はルコントの映画のキャラの様にエキセントリックではないけれどルコントのしみじみ系の作品の端から見てると滑稽な様な、でも泣ける様なあの独特の哀愁と重なりました。舞台がメリーゴーランド🎠というのも何とも言えない哀愁がありますよね。

探偵ものでも心理劇でもなんでもなくどちらかと言えばオールウェズ3丁目の夕日系かと思いますがとてもいいお話でした。


★★★★★☆




傑作集とは思いませんがどの作品も趣が異なるところは流石だなと思いました。ちょっと時間が空いた時などに一話ずつサクッと読めていいと思います。

それと印象的だったのは全ての作品に挿し絵が入っていてその作者のクレジットもあるのですが挿し絵の幾つかは作者不明の様で、知っている方がいたら教えてくださいと書かれてあったことです。時代を感じたしこれが本当のミステリーだなと思ってしまいました。

コメント

No title

ゴンさん

そう言ってもらえると嬉しいです
( ´∀`)有難うございます

怪人21面相は父の晩年父が入院している時付き添いで泊まった時父のベッドの横の簡易ベッドで読んでました。。。
でも読破できなくて。父が亡くなったあと読もうと思いましたが付き添いのことを思い出すのでその本捨ててしまいました。

短編は読みやすくてお勧めです☺🎵

No title

かみえるさん。こんばんは(^o^)今日もお疲れ様でしたm(__)mかみえるさんの解説は詳しく評論され、ご自身の感想や意見を言われ、すごく見てる私たちに分かりやすく伝わります。正直、江戸川乱歩の作品は怪人21面相ぐらいで明智君や小林君ぐらいしか知らないです(・・?)それも天知茂さんの…乱歩さんの作品がこれだけあるとは。。。本を読みたくなりますね(^_^)恋愛物がありますし。

No title

シャチさん

私も乱歩はもっと読みたいと思っています(⌒‐⌒)✨

No title

江戸川乱歩の小説、買おうかと思ってたんで
ストライクUPです(笑)

参考にさせて頂きますね。

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三匹のにゃんずと地味に暮らしています。
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