2014 140分 ロシア
「父、帰る」「エレナの惑い」のロシアの鬼才アンドレイ・ズビャギンツェフ監督が海辺の小さな田舎町を舞台に、欲深い権力者の餌食となり人生を狂わされていく一人の男と彼を取り巻く濃密な人間模様を重厚なタッチで描いた衝撃の人間ドラマ。カンヌ国際映画祭脚本賞、ゴールデングローブ賞外国語映画賞はじめ数々の映画賞を席巻した話題作。
モスクワから遠く離れた静かな入江の町。この地に暮らし、祖父の代から続く小さな自動車修理工場を営むコーリャ。若くて美しい妻リリアと前妻との息子ロマと3人で、慎ましくも満ち足りた生活を送っていた。そんなある日、町に開発計画が持ち上がり、彼の土地を市が収用することに。到底納得のいかないコーリャは、市を相手に訴訟を起こす。市長ヴァディムの権力を笠に着た横暴に対抗すべく、モスクワから親友の弁護士ディーマを呼び寄せ、徹底抗戦の構えを見せるコーリャだったが…。
allcinemaより
タイトルですが、私の感覚だと「裁かれるは小市民のみ」という方が正しいかなと。
力のないものは結局権力には太刀打ちできないという非常に虚しい内容。
それにしてもとても面白い映画で、最初から最後まで飽きずに楽しめました。
ハリウッドの娯楽大作が好きな方には面白くも何ともないでしょうが、ビターズ・エンド系のヒューマンドラマを好む方にはおそらくアピールするでしょう。私は後者でした。
まず映像がとても印象的。海辺に横たわる鯨の骨。朽ちて放置されている舟や、古い家屋。断崖絶壁に打ち寄せる波(そこに真っ赤なドラム缶が揺れている)。廃墟の教会の引きのショットも美しかったなぁ。その一つ一つがとても象徴的です。
登場人物たちの個性や街での暮らしも興味深い。はっきり言って善人というタイプの人達ではないが、悪党でもない(悪党は市長とその取り巻き)。皆当たり前の様に煙草を吸い、ウォッカを沢山呑む。コーリャたちの娯楽はバーベキューしながら(呑みながら)射撃。寒いし娯楽もあまり無さそうだからああいう暮らしになるのかなぁと。印象的だったのは、射撃の的が空き瓶だったのだけど、それが無くなると歴代の書記長たちの額縁入りの写真を的に出してきたこと👀あの演出は勇気があるなぁと。
特に印象に残ったシーンは、廃墟の教会と、市長が行っている立派な教会でのそれぞれのあるシーンの対比です。コーリャが夕方ロマ(息子)を捜しに廃墟の教会に行く。ロマはいなかったが火を囲んで不良たちが酒盛りをしている。コーリャは壁にもたれて座り、ウォッカをあおりながら上を見上げると、壁に丸い穴が開いていてそこから空が見える。穴の傍から紐の様な細長いものが垂れ下がっている。一方で立派な教会で司祭が説教をしている。そこに市長とその家族もいる。聴衆の中の一人の子供が上を見上げると、天井に綺麗に装飾された丸い窪みがあって、そこに照明のコードか何かの配線が垂れ下がっていた。何とも象徴的な対比で忘れられません。
後味は大変悪く、救いようのない話ですが、忘れられない作品になりました。
私はこれを見ていてアスガー・ハルファディ作品(『別離』『セールスマン』)を想起しました。普通の人々がすれ違い、行き詰って行く(結局幸福な方向には進まない)ところが。今作品は権力が絡むのでそこは違いますが。
ヒューマンドラマ派の方にはお勧めです。
★★★★★★★★