立ち去った女
- 2018/10/28
- 18:26
2016 128分 フィリピン
第73回ベネチア国際映画祭で金獅子賞に輝いたフィリピン映画。無実の罪で30年間服役していた女性の復讐の旅路を、3時間48分の長尺にして全編モノクロ映像で描き出す。主演は本作が17年ぶりのスクリーン・カムバックとなったチャロ・サントス。監督は「北(ノルテ)―歴史の終わり」のラヴ・ディアス。
かつて小学校の教師だったホラシアは、身に覚えのない殺人の罪で30年間も服役していた。しかしある日、同じ服役囚で親友のペトラが、殺人の実行犯は自分で、それを指示し、ホラシアに罪を着せた黒幕はホラシアの元恋人・ロドリゴだと告白し、自殺する。ついに釈放されたホラシアだったが、夫は既に他界し、息子も行方不明になっていた。自分の人生を破壊したロドリゴへの憎しみを募らせ、復讐の旅に出るホラシア。そんな彼女の前には、社会の底辺で助けを必要とする人々が次々と現われ、どうしても放っておけないホラシアだったが…。
allcinemaより
監督も作品も存在を知らず初めて見ましたが、私は好きでした。
とにかく長い(3時間48分)です。私は錦織くんの試合を見る合間に3日かけて見ました。しかしラヴ・ディアス作品は長尺が常らしく、3時間48分は「異例の短さ」なのだそうです👀❗
見初めて、とにかくワンシーンが長いので、なるほど、だから長尺なんだなと。
全編モノクロです。画面が暗い。光の使い方が印象的です。見ながら想起したのはテオ・アンゲロプロス。舞台がフィリピンなので映し出される風景は全く違いますが。
一応復讐劇という設定ですが、通常の復讐劇とは異なるし、カタルシスも無いです。サスペンスの要素も無いのでこれはヒューマンドラマですね。ハリウッドのエンターテインメントな作品を好まれる方にはおそらく退屈なだけでしょうからお勧めしません。でも私の様にヒューマンドラマを見る為に生きているというタイプの方にはお勧めです。私はその独特の世界観に引き込まれました。主人公は初老のおばさん。美男美女は出てこない(ホラシアとホラシアの元彼は若い時美男美女だったと思われるが)。風景も殺風景。でも目が離せない。
ホラシアが旅の中で関わった3人(卵売りの男性、ホームレスの女性、ゲイの男性)との関わりが白眉です。皆社会の底辺の人達。でも純粋な心の人達。特にホラシアとゲイのホランダとの魂の交流は忘れることができない。ホランダが終盤某所で見せる極端な行為、その時の鋭い眼光が頭から離れない。素晴らしい俳優と思う。
舞台は1997年です。ホラシアとホランダが自宅の庭にいる時にラジオからあるニュースが流れ、二人が驚きます。それで1997年と分かりました。あの時のフィリピンはああいう風景だったのだと勉強になりました。ホームレスの女性が「悪魔が沢山。悪魔だらけ。」と言っていたのが世相を象徴している様な。今はどうなのでしょうか。先日見た『ブランカとギター弾き』もフィリピンが舞台でしたが、道端でホームレスと思われる人が寝ていても誰も意に介さず通り過ぎて行くシーンが印象的でした。。。
ホランダの元彼の豪邸が貧しい人達がバラックを建てて住んでいる一角の突き当たりにあるのです。慢性的に停電で真っ暗な一角と隣り合わせに。門には常に守衛が二人。そこから目と鼻の先にゴミを集めて生活している人々が。あの混沌とした風景も印象に残りました。
とても素晴らしい作品と思うのですが、唯一残念だったのはラスト。とてもチープな印象。結末はあれで良しとして、もう少し違う演出方法は無かったのでしょうか。あの取ってつけた様なチープなラストで興醒めです。
それでもやっぱり良い作品と思います。
あれから20年。ホラシア、ホランダ、卵売りおじさん、マーメン(ホームレス女性)はどうしているのか気になります。。。
ホラシアの息子が行方不明になっていた設定は「ある奴隷少女に起こったできごと」(本です。読書感想文の書庫にありますので良かったら見てね)と重なりました。奴隷として苦労をした主人公のリンダも、息子と、もう一人実のお兄さんと生き別れになりました。1800年代のお話で時代は違いますが、こちらは実話です。母親として子供と生き別れになる悲しみは察して余りあります🙇
今まで何故ラヴ・ディアス作品に接したことが無かったのかが不思議で仕方有りませんでした。作品数も多いですし、こういうアート系の人の作品は必ず映画チャンネルで放送されていそうですが。放送はされているけれども私が知らなかっただけでしょうか。('_'?)
存在を知れて良かったです。他の作品も見たいです。
TV(BS)にて
★★★★★★★★