
2019 イギリス/フランス/ベルギー
100分
「麦の穂をゆらす風」「わたしは、ダニエル・ブレイク」の名匠ケン・ローチ監督が、近年急速に増えている新たな労働形態によって労働者の尊厳が侵されている深刻な実態を、真摯な眼差しで力強く描き出した社会派ヒューマン・ドラマ。家族のために宅配ドライバーとして独立した主人公が、全てを自己責任に帰結させる理不尽なシステムに絡め取られ、家族崩壊の危機に直面していく過酷な日々を、リアルかつ悲壮感いっぱいに見つめていく。
イギリスのニューカッスルで介護福祉士の妻アビーと16歳の息子セブ、12歳の娘ライザ・ジェーンと家族4人で暮らすリッキー。悲願のマイホームを手に入れるため、フランチャイズの宅配ドライバーとして独立することを決意する。そのためにはトラックを自前で用意する必要があり、アビーを説得して車を売り資金を工面する。おかげでアビーは介護先をバスで回らなければならず、家にいられる時間がどんどん削られていく。一方リッキーには、個人事業主とは名ばかりの、自由な裁量がまるでない過酷なノルマと、労働者の権利を剥ぎ取られた非情な自己責任のルールが待ち受けていたのだったが…。
allcinemaより
ケン・ローチの作品は切実だということは分かっていたつもりですが、今回は特に思いっきりボディーブローをくらったと言うか…ぐうの音も出ないという作品でした。観ている方も泣けてきました。個人的には『わたしは、ダニエル・ブレイク』よりもショックでした。あれも本当に辛い話でしたけれども、本作の方が悲壮感が大きかった気がしました。と言うのは本作の夫婦は働けてはいるのですが、働けど働けど全く光が見えてこない状態が続くのです。完全なワーキングプアです。リッキーが働く環境は、元締めがブラック企業で従業員をものとしか思っていません。ノルマをこなすにはトイレに行く暇もなく、荷物と一緒に尿瓶を積んで走っているのです。一日休むと制裁金100ポンド。配達先では客に悪態をつかれる、犬に追いかけられて噛みつかれる。客からクレームが入る。加えて息子が反抗期でケンカや盗みをして学校から両親が呼び出される。リッキーは仕事が手一杯でやっと学校にたどり着いたときにはもう面談は終わったあと。この様な悪循環が果てしなく続き経済的には借金が増え家族は肉体も精神も限界で崩壊寸前。正に八方塞がり。それでも一家は何とか家族の絆を保とうと頑張っていた
。しかしぎりぎりの状態のまま映画は終わり、エンドロールが始まった画面を見て愕然とした。
こんな世界に誰がした💔🙇😩要するに国の問題。でも今こういう状況はグローバルな様です。貧富の差は広がるばかり。この映画を観に行く車中のラジオから流れていたニュース。某有名実業家が千葉県の被災市に20億円の寄付。2千万円でも2億円でもなく20億円。持ってる人は持っているなあと(寄付は県民として有り難く思います!)。しかし世の中にはリチャードの様に肉体的にも精神的にも仕事ができる様な状態ではないのに働かなければならない人たちが沢山いる。問題は沢山働いても豊かになれないこと。こんな世界に誰がした🙇🌏⤵️⤵️
作品鑑賞後の車中カーラジオをつける気にも音楽を聴く気にもなれず、その様なことをあれこれ考えながら帰って来ました。
帰宅してからたまたまラジオでポン・ジュノの『パラサイト 半地下の家族』の解説をやっていたので聞きました。韓国に詳しい人が解説していたのですが、今韓国でも貧富の差が広がっていて、若い人たちは就職難の為海外移住を希望する人が75%だとか。『パラサイト 半地下の家族』はニート一家が富豪の一家にパラサイトして生き残る道を模索する話らしいですね。まだ観ていませんが、『家族を想うとき』の真面目に働くリチャード夫妻と何だか怪しい半地下の家族のキム一家は対照的に見えるけれど、何とかして貧困から脱け出したいという根底にあるものは同じですね。『万引き家族』もそうでしたが、これだけ貧困が主題に取り上げられるのは、貧困は今文明国でも深刻な問題だからですね。
ポン・ジュノ曰く「立場に関わらず(お金持ちであっても貧困であっても)必要最低限の礼儀を保たないと、その均衡が崩れたときに何か恐ろしいことが起こるのです」(そこが本作のポイントらしい)。
その言葉を聞いた時に『家族を想うとき』のラストシーンが脳裏に浮かびました。あの後なにか恐ろしいことが起こりそうな気がしたのです。リチャード夫妻とダニエル・ブレイクもそうでしたが、社会は彼らを人としてリスペクトを持って扱っておらず、彼らと社会の均衡は既に崩れていたからです。そうすると悲惨なことが起こるのです。こんな世界に誰がした‼️🌋🙇『ジョーカー』も正にそういうお話でしたね。世の中は不条理すぎる。そう思う多くの人がアーサーの怒りに共鳴しました。犯罪はいけないことですが気持ちは理解できます。
ということで。こんな世界に誰がした🙇🙇(しつこい😑)と思う作品でした。て言うか世の中って有史以来いつも不条理ですよね。リチャード夫妻の様な状況の人日本にも少なくないと思います。
『わたしは、ダニエル・ブレイク』でもそうだったのですが、ロケ地がニューカッスル・アポン・タインだったので、その地出身の知人を思い出しました。その人自身はNZに移住していますが、仕事でよくイギリスに行っていました。「イギリスの産業は死んだ」と言っていました。リチャードも配達先の客とサッカーのことで結構本気で口喧嘩しているシーンが笑えましたが、知人もサッカー大好きおじさんで、勿論ニューカッスルファンでした。容姿の雰囲気もリチャードみたいな感じの人でした。リチャード役の人、本当にこの役にぴったりのナイスキャスティングと思います!
因みに原題のsorry we missed youは宅配の不在票のことで、そこに印刷されている言葉でした。
「あなたに荷物を渡して書類にサインをもらわないと俺には金が入らないんだ!」というリチャードの魂の叫びに思えました。
ケン・ローチ作品は観ているととても辛いですが、生きている限り胸に突き刺さる作品を作り続けてほしいです。
★★★★★★★★