
1937 130分 フランス
年の離れた夫を亡くした、若い未亡人のクリスティーヌは38歳。若い頃に結婚したため、彼女は青春を謳歌しなかったことを、今になってさびしく思えていた。そんなとき、彼女がある手帖を見つける。そこには、彼女が16歳で、初めて舞踏会に出たときに踊った男性の名前が書き記されていた。「人生をやり直そう」。そう思った彼女は、20年近く会っていない、かつての恋人たちを訪ねていくのだった。
ORICONデータベースより
とても面白かったです‼️テーマは普遍的なものなので、ヒューマンドラマを見る人で大人ならば(特に中年以降)誰もが共感する部分があると思います。
1人生とは儘ならないものである。
2青春は思いでの中だけに留めた方がいい。
3そして人生は続く(生きていれば少しは楽しいこともある。クリスティーヌの場合)。
そういう映画でした。はい(笑)。
恋人たちというか(恋人もいた様ですが)舞踏会の夜にクリスティーヌを口説いた男たちを一人ずつ訪ねて行くのですが、ポイントはほぼ全員が人生に挫折しているところです。クリスティーヌは裕福だけれど愛の無い結婚生活だった。それでも裕福なのは恵まれていますよね。男たちはかつては夢があったけれども夢破れ、今はしがない現実を生きている。それでも各人なりに人生に向き合っている(つもり)。これがこの映画を忘れ難いものにしていますね。
複数の男性が登場するオムニバス形式になっており、各人が印象深い人生を演じています。それぞれ趣が異なり、サスペンス風だったりメロドラマ系だったりコメディーだったりして飽きさせないところが流石。
私がツボだったのは法律家から落ちぶれて犯罪者になったピエール(ジョー)です。
昔は「馬鹿がつくほど」真面目だった為に、人に利用され辛酸を嘗めた結果狡辛い悪党になったという役どころ。名前も変えてジョーと名乗っていた。なので20年ぶりに訪ねてきたクリスティーヌに対しても何か下心があって来たのだと思った。ところが只純粋に会いに来たと知って感激する。二人は昔親しんだ詩を口ずさみながらしばし遠い昔に想いを馳せる。そこであっけなく現実に引き戻される出来事が。ジョーはクリスティーヌに「立ち去るのはジョーだ。ピエールは君に残す。」と言い残して去っていった。
まあカッコいいったらないです。一目見たら忘れられない風貌。ニヒルだけれど繊細。一挙手一投足、話し方、表情。全てが印象的で魅力的。初めて見ましたが大ファンになりました。これを名優と言うのでしょうね。名前はルイ・ジューヴェ。
もう一人特に印象に残ったのは闇医者のティエリー。これはティエリー本人と言うよりも彼のいる環境全てひっくるめてです。工事現場の傍に住んでいて常に騒音が響いている。恐ろしい表情にぞっとさせられる妻。斜めの画面。発作時とその後の修羅場。全てが強烈でした。ティエリーが窓の外を眺めて言う台詞「この眺め。地獄とはこんなところだ」が忘れられません。彼の地獄の様な人生とリンクしています。
因みに私は出演者全員を初めて見ましたが、聞いた話ではここに出ている人は皆名優らしいです。確かに芸達者だったと思いました。肝心のクリスティーヌ役のマリー・ベルがどうも表情不足というか、今一つ物足りなさを感じましたが。
旅を終えたクリスティーヌが知人と話すシーンで印象的だった会話があります。
「後悔する為に旅したみたい」
「旅をしなければ過去の呪縛に捕らわれたままでしたよ」
これは事実ですよね。私の知人で不倫をしたあとに離婚をした女性がいました。結局ご主人とも恋人ともうまくいかなかったのですが、しばらくしてから元ご主人と恋人それぞれに会いに行ったのです。その結果彼らとは全く別の人生を生きていると実感し、過去と決別できたと言っていました。
デュヴィヴィエはこれが初めての鑑賞になりました。本作を見ただけでも名匠と思いました。因みに何年も前からずっと見たいのが『パリの空の下セーヌは流れる』です。デュヴィヴィエのコンプリートボックスがあればいいのに。高くても買います。
本作ではルイ・ジューヴェ他色々な発見がありましたが(美容院の髪を巻く機械?やピストルなど今では博物館にありそうなレトロな小道具も興味深かった)、悲しかったこととしては、サントラで印象的な楽曲を提供している作曲家モーリス・ジョベールは40歳で戦死しています。残念でした🙇
とりあえずた動画配信サイトに何本かあるデュヴィヴィエ作品は地道に見ようと思いました。因みに本作はどこのレビューも大変高評価ですが、批評家には不評だそうです。私はお勧め致します。
★★★★★★★★