サーカス・オブ・ブックス
- 2020/04/29
- 22:59

Netflixより
フィギュアを手にしている人は有名なアダルト俳優だそうです。
ロサンゼルスで1982年にオープンしたゲイ・ポルノ専門店サーカス・オブ・ブックス。経営者のカレン・バリー夫妻は3人の子供たちを育てながら店を経営してきた。店は長きに渡って同性愛者たちの憩いの場所だった。
とても興味深い作品でした。LGBTQの一端を垣間見れて勉強になったし、店主の二人の人生の軌跡を見て、こういう言い方が適当かは分かりませんが、人生ってなんて奇妙で面白いものなんだろうと思いました。というのはこの二人のビジネスキャリアが興味深いのです。カレンはウォールストリートジャーナル他で働いたジャーナリスト。専門は刑事司法。バリーはUCLAの映画学科で学び(ドアーズのジム・モリソンが在籍しており、一緒に映画も撮ったそう😮)、『2001年宇宙の旅』やスタートレックで特殊効果の仕事をした。その後(バリーが何故映画業界を辞めたかは分からないが)当時特殊効果に使われていた光学プリンターの知識を活用して透析装置の付属品を発明(発明のきっかけはお父さんが腎臓病だったとのこと)。評判は上々で注文も受けたが資金繰りに行き詰まり権利を売却。さて家族も増えるしどうしようと思っていたところで、ラリー・フリント出版のポルノ雑誌のディストリビューター募集の新聞広告を発見。それがこの世界へ進むきっかけになりました。いやー面白いですねー😆人生どう転ぶか本当に分かりませんね。その後ロスに店を構え、以降二人は長きに渡って店を経営した。カレン曰く「(店は)一時的なものだと思っていた。大学出ているし専門職のキャリアもあったから。」ところがそれがずっと続いたという訳。因みにカレンがジャーナリストを続けなかったのは、新聞記事というのは気が滅入るものが多く、続けている内に「もう沢山」と思うのだそう。
印象的だったエピソード。
・自分達の職業については誰にも言わなかった。
ポルノ書店だと言うと「私は気にしない」と言われる。 これが他の職業なら誰も「気にしない」とは言わない。「気にしない」と言うのは気にしているから。
・子供たちが子供の内は店の中を通る時は「床しか見ちゃ駄目」と言われた。
・(夫妻の次男ジョッシュがゲイであると告白したことについて。両親はそれを受け入れた)
カレン「ゲイの人たちとは上手く仕事をやってきたけれど、自分の息子がゲイであるということは染み付いた宗教観から簡単ではなかった(カレンはユダヤ教徒)。息子に関しては自分の価値観を変えるべきと思った」
・レイチェルのジョッシュへのインタビュー。
レ「私に相談すれば良かったのに。ゲイの世界にいたし。相談しようと思わなかった?」
ジョ「君はゲイすぎるしアートすぎる。君が僕の居場所だと思ったことは一度も無い」
このジョッシュの言葉が印象的。分かる気がしました。LGBTQも千差万別なのでその世界観は必ずしも理解し合えるとは限らない。でもこの家族はお互いの存在を認め合い、円満なので(そう見えます)良かったです。
・多くの従業員や知り合いたちがAIDSで亡くなった話は悲しかったです。
「初期の頃から一緒に働いた子が金曜日に実家に帰って月曜日に亡くなったの。文字通り死の間際まで一緒に働いたのよ。後で彼の母親から電話がかかってきた。生前会いに来なかったことを悔やんででしょうね。会いに来るべきだった。本当に酷い時代だったわ」
・ポルノに風当たりが強かったレーガン政権時、店がわいせつ物頒布の罪で起訴された際に尽力してくれた弁護士の言葉(サーカス・オブ・ブックスの様な場所が失われる時代について)。
「ビジネスだけではなかった。人々が集まれる場所、知り合える場所でもあった。物品は配達されるだろうが、人々の交流は失われ触れあいも無くなる。悲劇的な損失だね」
他にラリー・フリントやドラァグスーパースターのアラスカ、LGBTQ活動家などが出演し興味深い発言をしています。アラスカはドラァグの時はド派手だけど(YouTubeで見たことがあります)、本作の中では普段着で素で、そっちの方がシンプルに美しく私は好きでした。
店は2008年(インターネットが普及しだした頃らしい)から売り上げが下降し、最近では完全に時代遅れで従業員に給料も払えない状態の為に閉店。おそらく2016年だったと思います。
監督は夫妻の娘でアーティスト(歌手と映像作家らしい)のレイチェル・メイソン。画像オレンジの髪の人です。両親共にクリエイティブな仕事をしていたので血筋ですかね。分りやすかったですし、よくできている作品と思いました。オープニングクレジットがいい感じです。年季が入った店の壁に貼られたステッカー、名刺ファイル、引き出しの中のファイルのインデックスにさりげなくクレジットが書かれているのを抜かれる演出。エンドクレジットの曲が又良いのですが(気に入って3回も聴いてしまった)、これも本人の曲で本人のパフォーマンス。
レイチェルがカメラを回している時にカレンが「何故撮ってるの。撮られたくない。」と不機嫌そうにいうシーンが複数あり、YouTubeでもこういうシーン見たことあるなあと(それは某YouTuberがお母さんの手料理を撮っている動画で、お母さんが料理の後に「YouTubeに出たくないって言ったでしょ」と不機嫌そうに言い、息子さん(YouTuber)が今日は色々気まずいですね😅と言っていた)。動画あるあると思いますが、この作品を世に出してくれて良かったです。面白かったし勉強になったので。因みにプロデューサーはライアン・マーフィー。なるほど。サーカス・オブ・ブックスの店内を映した時に一瞬ですが、ライアン・マーフィーという名前のコンドームが映りびっくり。なんじゃありゃー😮(笑あれはライアン・マーフィーのクレジットですね⁉️懲りすぎ😅)
レイチェルのクイアフレンド曰く
「君の両親には大人としてのあり方を教えてもらった気がする。誰もが勧める道を通らなくてもいいんだと」
夫妻は子育てしながら店を続けていくのはとても大変だったと言っていました。商売はなんでも大変ですが、特殊なビジネスだから余計大変だったのではと思います。
お千代さん(人生いろいろ)な作品でした。
『ラリー・フリント』と『ストーンウォール』見てないんですけど、見ようかなと思いました。
★★★★★★★★★