どん底

1936 　 95分　フランス

設定をオリジナルの帝政ロシアから現代のパリに移し、独自の大らかさを湛えたルノワール流の“どん底”にしている。特に主人公もなく、ドラマ性も希薄な原作に比べ、はっきりと中心人物を置き、筋も盛り込んで映画的になった。
　男爵（Ｌ・ジューヴェ）はとうとう財産を使い尽くし、最後の運命を賭けた賭博にも負け、死を覚悟する。一方、場末の木賃宿に住む親譲りの盗っ人ペペル（ギャバン）はその世界を出ていくことを強く望んでいる。彼がある夜忍び込んだ邸が男爵の家。自殺を図ろうとしている男爵を止めたことから、一晩を二人で語り明かし、男爵は彼らの木賃宿の仲間となる。宿の主人コスツィリョフの女房ワシリーサはペペルに浮気心を疼かせていたが、彼が好きなのはその妹のナターシャだった。彼女の愛情により今の稼業から足を洗う決意をしていたペペルだが、姉妹は彼をめぐって争った。ある夜夫婦揃って妹を痛ぶるワシリーサ。叫ぶナターシャにペペルは彼らの部屋に飛び込みコスツィリョフを殴りつけた。中庭に逃れた彼だが、下宿人たちに嬲り殺しにされてしまう。ワシリーサは嫉妬に狂って、犯人はペペルだと警察に訴えた。ナターシャはひたすらペペルの帰りを待った。そして出所したペペルは門の前に立つ彼女を見つける。二人は新生活へと旅立つが、見送る男爵はすっかり宿に根を生やしてしまっていた……。
　単に新旧の交代ではなく、富める者と持たざる者の絶望と希望の交錯を描いて、しみじみと人生に想いを馳せさす作品。威厳あるジューヴェの演技が圧巻。

allcinemaより

　

上の解説は殆どネタバレになっていますが😅たまにこういうのありますが、落ちまでは書かない方がいいと思います❗

原作(未読)はマキシム・ゴーリキーの戯曲。木賃宿という舞台で繰り広げられる人間模様が戯曲にはうってつけかと思いました。

まだ若いジャン・ギャバンが一生懸命演技をしているという印象で好感を持ちました。最近舞踏会の手帖を見て一目惚れしたルイ・ジューヴェが出ており、それだけでお得感最強😆❤️ペペル(ギャバン)と男爵(ジューヴェ)の友情も本作の見所の一つです。男爵とベペルが初めて会った日に男爵が「幸せはどんな時」かとペペルに訊くと、「夏の気持ちの良い日に草むらで寝っ転がること」と幸せそうな表情で答え、男爵がそんなのが幸せなのかという反応でしたが、後日男爵が破産して木賃宿の住人になってから、ペペルと二人で草むらに寝転び、それが本当に幸せなことだと実感するシーンが良かったです。何気ないシーンですが、今の様に公園にも気軽に行けない立場から見るととても羨ましかったです。でもペペルの心はその時既にそこにはありませんでした。

木賃宿の住人たちで幸せそうな人は誰もいませんでしたが、不思議なことに元貴族の男爵が一番その場に馴染んでいました。その場に留まる人、そこで人生を終える人、新たな地を求めて旅立つ人。悲喜交々でした。ペペルは八方塞がりになる前に希望通り旅立ててラッキーでしたね。彼らは安住の地を見つけることができたのでしょうか。

ずっと同じ県内に住んでいる自分は移住に憧れます。でも『ブルックリン』のエイリシュがすんでのところでNYに帰った様に、人生には決断しなければならない時もあるでしょう。『COLDWAR　あの歌、２つの心』の主人公のモデル(監督の両親)は、40年間ヨーロッパを放浪したということですが、それもエネルギーがなければできないことですね。人生色々です。

因みに本作は邦画もあるのですね。黒澤作品で長屋が舞台。いずれ見たいです。

★★★★★★☆