
2018 97分 ベトナム
これが長編デビューとなるベトナムの女性監督アッシュ・メイフェアが、自身の曾祖母から聞いた話をベースに撮り上げた官能の女性映画。一夫多妻婚が認められていた19世紀ベトナムの秘境を舞台に、わずか14歳で第三夫人として富豪の家に嫁ぐことになった少女を主人公に、世継ぎを産むことが最大の役割として求められた女たちの日々の営みと心模様を、官能描写を織り交ぜつつ、静謐かつ透明感あふれる映像美で綴る。主演はオーディションで選ばれた新人、グエン・フオン・チャー・ミー。共演にトラン・ヌー・イエン・ケー、マイ・トゥー・フオン。
19世紀の北ベトナム。絹の里を治める富豪のもとに嫁ぐことになった14歳のメイ。富豪にはすでに第一夫人のハと第二夫人のスアンがおり、まだ無邪気さの残るメイは2人からさまざまな家のしきたりや暮らしに必要な知識を学んでいく。そして自分に求められているのは元気な男児を産むことだと自覚していくメイだったが…。
allcinemaより
監督の祖父母と曾祖母の話がベースになっているそうで、この作品で描かれているキャラクター、エピソードは一族に実在した人物たちが、19世紀末から20世紀初頭に実際に経験した出来事だそうです。
興味深い作品でした。ずいぶんと官能的な描写が多い様に思いましたが、メインは当時の女性が置かれた立場、生きることの大変さです。メイが嫁いだ家には妻が二人いてメイは3人めだった訳ですが、それぞれの思惑はあるものの、3人の関係自体は比較的円満な状態と思いました。が、彼女たちは妻という立場でも決して楽をして暮らしている訳ではなく、使用人たちと同じ労働力であり、家畜の世話をしたり、夫の親の面倒を見たりと日々忙しく働かなければなりません。そして夫人という立場は=跡取りを産む。それも男でなければ夫人とは言えない。性生活は完全に夫の為すまま。あらゆる意味で妻たちは完全に主の道具でした。
☆ネタバレ注意☆
3人の妻たちは均衡を保っていましたが、第二夫人は第一夫人の息子と不倫関係だったり、メイは夫ではないある人を愛してしまったり、メイの産まれた子供が女の子だったのでメイは失望のあまり人の道を外しそうになったり。。。と結構どろどろでしたね。印象に残っているエピソードは、使用人同士で男女の関係になった二人。女性が妊娠したが、その様なことは禁忌だった様で、女性は丸刈りにされ追放、男性も主に木の枝で何度も叩かれていました。産まれる子供はお寺に預けられるそうです。
一家の年頃の長男と長女も親の決めた相手と結婚することが決まっており、長女はそれに何の疑問も抱いていない様でしたが、長男は第二夫人にぞっこんの為結婚を頑なに拒否。母に嗜められるもどうにもならず。やむを得ず主が先方に破談を申し込む。「息子は娘さんに触れていません。まだ他の男性と結婚できます。持参金も三倍にして返します」そこで激怒したのが新婦の父。体面を重んじ承諾せず。娘(新婦)を置いて帰る。そこで父が娘(新婦)に言った言葉がこの時代の女性の立場を象徴していました。「家に泥を塗った。唯一の役目も果たせんのか」
唯一の役目❗黙って親の決めた相手の妻になること。初夜に新郎に処女を捧げること。メイの初夜の翌日に赤く染まった布を誇らしげに掲げられた様に(これと同様のシーンはヨーロッパの映画でも見たことがあります)。新婦の握りしめた拳に大粒の涙がこぼれ落ちた。
全てはそういう時代だったということだと思いますが、あまりにも酷い🙇人間(この時代は男ですね)というのは残酷なもの、愚かなものだと実感。女は三界に家無しと言いますが、自分もそういう感覚を持ったことはあります。しかしメイたちの時代は次元が違いますね。
ということで殺伐とした映画ですが、良いところは景色が大変美しいです。セットも趣があります。役者の演技も素晴らしい。それ以外は辛いです🙇
この映画を見てとても重い気持ちになりました。というのは児童婚は今も世界の各地で行われているからです。14歳と言えばこれからが青春ではありませんか。私は14歳の時は部活に明け暮れていました。
過激派集団に拉致されて性の奴隷にされる子達、幼少の頃から児童労働を強いられる子達もいます。他にも様々な要因で苦しんでいるこどもたちが世界には沢山います。自分にはどうすることもできないのですが。本当に悲しいです。
私はこの映画を見てずっと脳裏に浮かんでいた映画がありました。それは『ミッドサマー』。ともに独立したコミュニティーで暮らしている人たちの話だったので。メイが嫁いだ家は普通の裕福な家なのですが、山奥にあってお隣さんとか一切出てきませんでした。蚕の養殖をしていたのでそれを売るときに外部と接触するとは思います。何かの行事でお寺も出てきました。でも普段はあまり外の人たちと接触しない生活の様に見えました。特に女性たちは。つまり自分たちだけで、自分たちの慣習に則って生活しているので、現代社会に暮らす人から見ると本当に異次元そのものです。でも子孫を残すために外部から人を迎えるところは同じでした。そこは他に方法が無いのですね。そしてどんなところか知らずに入ってしまった人たちには地獄が待っているという図式でした。
物語の終盤で第2夫人の次女(まだ小学生くらい)が長い髪を自ら鋏でばっさりと切るのです。そしてニカッと笑います。この子は主張のはっきりしている子で、「私は大人になったら男になる。そして奥さんを沢山もらう」等と言っていました。なかなか頼もしい性格です。この髪を切ってニカッと笑うシーンは、つまり「私はお母さんやお姉ちゃんの様には生きない。私は新しい世界に踏み出す」或いは「私がこの因習を断ち切る」という決意の現れだと解釈しました。このシーンには希望を感じました。
★★★★★★★★