1996 128分 香港
お馴染みチェン・カイコー、レスリー・チャン、コン・リーの「さらば、わが愛/覇王別姫」チームで、20年代の上海と蘇州を舞台に愛憎ドラマを描いた作品。富豪パン一族の長に嫁いだ姉を持つ、上海ジゴロのシャオシェ。彼が少年時代にうけたパン家に対する恨み、心の傷は癒しようがなかった。彼の上海での仕事は資産家のマダムを誘惑し、集団でおとり強盗を働くこと。ボスに命じられた次のターゲットは、なんとパン家の一人娘、ルーイーだった。彼女の兄は阿片中毒で廃人となっていために一族を継承する能力はないとみなされ、ルーイーが長となっていたのだ。土地柄、古めかしい文化が匂う蘇州のお嬢様ルーイーが、上海までシャオシェを追いかけて都会の空気に触れたとたん大胆になっていくが……。騙すつもりだった彼もまた、ルーイーを愛し始めていた。ゆくゆく振り切られたシャオシェが施す復讐とは? 養子として一族に加えられた“弟”の表情の変化がこの物語のラストを飾る。
allcinemaより
以前シャオシェが家を出たところまで見て挫折し、そのままにしていたのですが、気を取り直して見たらとても良かったです。やっぱり映画は最後まで見ないと駄目ですね。最後まで見てもつまらないものもあるのですが😑
人間関係がどろどろの話ですね。シャオシェ(チャン)、ルーイー(リー)、トアンイー(ケヴィン・リン)が幼なじみ。ルーイーはパン家のお嬢様でシャオシェは若旦那様の義理の弟だが立場は使用人だった。(何故奧さまの弟なのに殆ど使用人なのかが分からなかった。本来ならきちんと教育を受けさせて一角の人になる筈では?パン家にはその財力はあるのだから。でもパン家を見ていると大切なのはパン家に生まれた者だけらしい。)
ルーイーがパン家の跡取りになった時に女性だからということで、弟(ルーイーのサポート役)として迎えられたのが遠縁のトアンイー。
左からトアンイー。ルーイー。シャオシェ。
作品の肝にもなっている象徴的なショットです。
このとき彼らはまだ後の激動の人生を知らない😢
3人とも運命に翻弄される。時代が悪かったというのもありますね。パン家が阿片に染まっていたところがそもそもの不幸の始まり。それでルーイーの縁談が破談になった。ルーイーの兄の若旦那様は阿片中毒で、その妻のシャオシェの姉も阿片に毒されており、単なる変態夫婦で人として機能していなかった。直接その犠牲になったのがシャオシェ。そしてシャオシェは家を出て上海でやくざに拾われジゴロとなる。
ここまでが2010年代の話で、20年代になり大人になったシャオシェとルーイーがパン家で再会をする。シャオシェは仕事で来たのだがそこで二人は恋に落ちてしまった。しかしそもそも彼らの歴史も、現在の状況も幸福な恋になろう筈もない。
シャオシェは上海に戻るがルーイーは彼を追って上海へ。そんな2人にシャオシェが所属するやくざ、シャオシェの情婦、シャオシェに心の傷を負わせたのにシャオシェを頼る姉、ルーイーを盲目的に愛するトアンイー。。。が絡み、様々な愛憎が渦巻き破滅へ向かって加速する。
というお話でございました。シャオシェが拾ってもらったやくざのボスに溺愛されていて秘蔵っ子という感じでしたが、シャオシェはジゴロになってからも心の底に純粋な部分と、それと共にトラウマによる闇の部分を併せ持ち、そのジレンマが良かったです。レスリー・チャンの演技がとても繊細だった。きっと生真面目な性格だったのかもしれない。だから鬱になってしまったのかもしれない。などと考えて悲しい気持ちになりました。(亡くなり方が悲しすぎたので)。
個人的にはトアンイー役のケヴィン・リンが良かったです。ルーイーのことを愛しすぎて歪んでいく複雑な役どころを熱演。イケメンだしいい役者さんだなあと思いました。役者は続けている様なのですが、この作品以降目立った作品が無い様です?imdbのプロフも顔写真さへ無い。そういう人って多いですね。代表作は一本だけ。でも名前も知られていないという人。あんなに素晴らしい演技をしても成功できないのですね。悲しい😢
20年代の上海の街並みとパン家のセット共に素敵でした。印象的な小道具の数々。トランプ、イヤリング、薔薇の花、詰襟、丸いサングラス。阿片の煙。家の中を自転車で走る。提灯の間😢
冒頭の蓮が浮かぶ中を縫って手漕ぎの船が進む様。どれも心に残ります。
ルーイーがいつも翡翠ばかり身に付けていたのがある日ゴールドのフープピアスを着けていたことで心境の変化を感じました。上海でクラブで潰れているシャオシェに会いに行った時は目一杯お洒落していた😢✨
この映画を見ながら思い浮かべていたのが第三婦人と髪飾り(以下サードワイフ)です。冒頭の手漕ぎの船が進むシーンや、お金持ちの家の話というところが重なりました。サードワイフは19世紀の話で舞台はベトナムでしたが、14歳で知らない人と結婚して苦労する少女の話で、お金持ちの家で生活には困らないけれど、自分の人生に選択肢が無い(生まれた環境と親の権限が大きい)というところが重なりました。人間関係も家の主人がちょっと変態っぽかったり、血は繋がっていないけれども近親相関的な関係の人たちがいたりしたところも重なりました。ルーイーの場合はもう少し時代が新しかったし、シャオシェと駆け落ちして北京に出れば違う人生があったかもしれないですが、元を辿れば生まれた家が全てだった(家(((阿片))の犠牲になった)ということだと思います。やはり生まれた時代が大きいですね。
一つ引っ掛かかったことがあります。シャオシェの最後の選択です。再犯だったので。最初の時は解る。あれは致し方なかったと思える。でも2回目は駄目。がっかりしました。
人生というのはひょんなことから180度変わってしまうのだなあとも思った映画でした。シャオシェとルーイーの場合はそこまでの経緯を見ると、うーん😑と思いますが、驚いたのはトアンイーでした。いずれにしてもパン家はその後没落したと思います。
チェン・カイコーは『キリングミーソフトリー』しか見たことがなくて、あれを見たときも衝撃でしたが、精神に問題がある人というか、ある種の極限状態を描きたいのかなと思いました。
本作はドラマチックで私は好きでした。悲しい話でしたけれども😢💔他作品も見たいと思います。
因みに原題の『風月』は調べてみたけれどイマイチ意味が分かりませんでした。中国語で風月場所が風俗の場所ということらしいので何となくニュアンスは浮かびます。英語のタイトルtemptress moonはmoon struckに近いですかね。坑がえない狂気という感じでしょうか。どうしても私の頭にはオジーのbark at the moonが浮かんでしまうのですが😅
★★★★★★★★☆