乱れる
- 2020/07/22
- 09:50

1964 98分 日本
戦争中、静岡県の清水にある森田屋酒店に長男の嫁として嫁いできた礼子。しかし、ごく短い結婚生活を経て夫は戦死。礼子はその後も森田家に留まって店を切り盛りしてきたが、最近は経営が逼迫し、次男の幸司が東京での会社員生活を辞めて帰郷し、実家の仕事を手伝うようになっていた。やがて礼子は半ば追いだされるようにして森田家を後にし、東北の実家へ戻る決意をするが、義姉に長年恋心を抱いていた幸司が、彼女の後を追う。
WOWOWより
事前知識は成瀬巳喜男作品、主演デコさん、加山雄三。義理の姉弟の2人がどうも逃避行するらしい。のみ。
いやー。。。‼️面白かったし昭和の風景が味わい深いしそして何と言ってもラストがびっくり😮😮😮でした💨
舞台が何処か分からず見ていましたが背景に山並みが見えたので、いい感じのところだなあと思って見てました。後に静岡と判明。
私はとても驚きました。舞台となっている町にスーパーマーケットがあるのです。時は1964年。昭和39年ですね。私は昭和40年代に東京都下で子供時代を過ごしましたが、そこにはスーパーはありませんでした。駅前にはデパートがあり、賑やかでしたが、そこからバスで15分?位のところに住んでいました。住宅街でしたが、周りには畑が点在し、空き地、資材置場などがあり長閑な雰囲気でした。私の母は自転車でちょっと行ったところにある個人商店で買い物をしていましたが、今思うとスーパーの前身みたいな感じの店でした。因みに2階建てでした。2階建ての個人商店て今思うと凄いのかも。
スーパーはスーパーと思われるものが一つだけありました。でも家からは遠かったし、そこで買い物をしたことはありませんし、シャッターが閉まっているのを一度見ただけです。その時「あれがシャッターというものなんだ。凄い!」と子供心に思った様な記憶がある様な気がします(笑)
この映画は町にスーパーができて、客が全部そっちに流れて追い詰められていく商店の人たちの話なので、私の子供時代に住んでいた町も多分そうなるちょっと前で、私が目撃したスーパーらしき店はいち早く町にできたスーパーだったのかもしれません。でもこの映画を見て静岡の清水は私がいた東京都下より進んでいたんだなと思いました。
加山雄三の映画を見たのが初めてでしたが(お父さんのは見たことありますが)、流石に天下の美男子の息子ですね。若い時カッコ良かったんだなと👀❤️幸司は25歳、礼子は36歳の設定でしたが当時の実年齢は加山さんは27歳、デコさんは40歳でした。デコさんは36歳にしては老けて見えました。でも昔の人は落ち着いて見えるので実年齢より上に見えたのかもしれませんね。
演技は加山さんはぶっちゃけ大根に見えましたが(失礼)、雰囲気があっていい感じでした。幸司は前半はろくに働かず、パチンコしたり麻雀したり呑み歩いたりとちゃらちゃらしていましたが、店の配達をしていた従業員が辞めてから自分が店の仕事を一所懸命やるようになり見違えました。
そこで実家をスーパーにする話が持ち上がりました。結婚して家を出ていた幸司の姉たちは礼子にお見合いを持ちかけ、再婚して家を出るように仕向けていました。もし実家がスーパーになるとして、礼子がそこで働くとしても従業員として給料を払えばいいと言います。それに対して幸司は憮然。「戦後の焼け野原でバラックを建て物資を運び店を再建したのは義姉さんだ。義姉さんを重役にするべきだ❗」
結局礼子は実家に帰ることになりました。幸司は礼子の後を追います。そこからがこの物語のハイライトですね。
一番心に残ったのは礼子が汽車の中ではらはらと涙をこぼすシーンです。幸司は若い人と結婚して店を継ぐべき。私は身を引く。でも女として幸司の気持ちは素直に嬉しい。
八神純子の「揺れる気持ち」という名曲があるのですが、その歌詞「寄せてはかえす 波のような気持ち その日その日で新しいの」を思い出します。初めて聴いた時からこの歌詞が忘れられません。この時の礼子も波の様に揺れ動く気持ちが堰をきって溢れだしたのだと思います。おそらくデコさん史上でも名シーンではないでしょうか。
女優陣の演技は素晴らしかったです。草笛さんは既に大貫禄。白川さんは超絶美人。身内とお嫁さん(礼子)の間で悩むお母さん役の三益さんも流石。旅先の温泉宿の女将さん役の浦部粂子さん、はすっぱな若い女性(幸司のGF)役の浜美枝さん(後のボンドガール!)も良かった。デコさんは流石の安定感でしたね。古い映画を見ると台詞がよく聞き取れないことがあったりしますが、デコさんはそういうことが無いです。
あと冒頭の話に戻るけどやっぱり昭和の日本の風景がとても良かったです。ハイライトの礼子の故郷への旅。車中からの景色。駅での立ち食い蕎麦。ホームで駅弁を売る人。銀山温泉の風景。味わい深かったです。
そして何と言っても衝撃のラスト。まさかこういう展開とは夢にも思わなかったので久々の超大どんでん返しでした。ちょっと無理があるかなとも思いますが、かなりドラマチックではあります。
しつこくてすみませんが当時の暮らしについてもう一つ。劇中でお風呂に入るシーンが出てこなかったので、いつお風呂に入っているんだろうと思ったら、お母さんがご飯の時に「混む前にお風呂に行くわ」と。礼子さんが「私も行きます」と。それでお風呂は銭湯なんだと分かりました。私は物心ついた時からずっと自宅にお風呂があって、近くに銭湯も一つも無かったので馴染みが無かったのですが、大人になってから同世代の人でも子供の頃お風呂は銭湯だった人も多いということを知りました。
あと舞台の酒屋の商品の名目やその並べ方。幸司の実家は和風だったけど長女の嫁ぎ先はリビングはソファがあってお洒落な道具でコーヒーを淹れていたり。色々と興味深かったです。
今の色々な邦画よりずっと面白いし傑作だと思いました。
追記
ちょっと『焼肉ドラゴン』と被るところがありました。時代設定もそんなに変わらない。移民のお話ではありませんし兄弟姉妹の構成も違いますが、実家が商売をやっている。一人息子(に問題がある)。長男(長女)のパートナーを次男(次女のパートナー)が好きだった。等。
★★★★★★★★