羊飼いと風船
- 2021/10/11
- 22:06

2019 中国 102分
「轢き殺された羊」のペマ・ツェテン監督がチベットの大草原で伝統的な暮らしを続けてきた家族を主人公に贈るヒューマン・ドラマ。押し寄せる近代化の波や中国の一人っ子政策の影響が家族の中に少しずつ軋轢を生んでいく姿を、雄大な自然をバックに力強い筆致で描き出していく。出演は「轢き殺された羊」でも共演しているソナム・ワンモとジンバ。チベットの大草原に暮らす三世代の家族。牧畜で生計を立てる若い夫婦は3人の息子たちを抱え、経済的に苦しい日々を送っていた。そんな中、母親の妊娠が発覚する。喜ぶ周囲とは対照的に、母親は出産への躊躇いを募らせていくのだったが…。
allcinemaより
U-NEXTに有料であるのを見て気になり、見るかどうか迷っていました。先日宇多丸さんの番組に中国の映画業界の方が出ていてお勧めにこの作品を挙げていました。監督さんが小説家でもあるので「小説の様な映画です」と言っていたのが決め手になりました。かなり面白かったので見て良かったです。
一家のTVに世界初の試験管ベビー誕生のニュースが流れていたのでネットで調べたら1978年とありました。なので70年代末の設定なのかと思いましたが、冒頭で「中国では80年代から家族計画を実施した」と字幕で出るので80年代の設定の様です。
チベットの牧畜で生計を立てている一家のお話です。どの様な暮らしをしているのかを観察できてとても興味深かったです(監督が地方の習慣も入れましたとオフィシャルサイトのインタビューで言っていました)。特に死者の弔の様子。
☆ネタバレ注意☆
(結末は書いていません)
見て思ったのはやはり女性の負担が大きいということですね。一家に女性は妻一人。家事、家族の世話、そして羊の世話もしなければならない。既に3人子供がいるが妻は夫にもう一人生んでくれと懇願される。高層が亡くなった夫の父親は家族として転生すると言った為です。妻は気が進まない。今でも家計が苦しくて手一杯なのに。診療所の女性医師に中絶を勧められる。4人目を生んだら罰金だと。彼女は妻に言う。「私は一人にした。子育ては楽だし教育にもお金をかけられる」このシーン印象的でした。妻は悩みに悩むが夫は生むこと一択。長男もお祖父ちゃんの転生を信じていて生んでほしいと言う。
自分は女性で母親なので私が彼女なら無理だなと。生みません。4人育てるのは本当に大変ですから。3人でもかなり大変。自分は2人でしたがそれでも青息吐息でした。
彼らの宗教観は他人がどうこう言うことではないのですが、もう一人産んだら結局一番負担がかかってしまうのは妻なのですよね。そこに対して男性たちは理解が欠けています。マルリナの明日を思い出しました。結局色々な面で皺寄せが来るのは女性なのです。由々しき問題ですね。一人っ子政策の為に非常に苦悩した夫妻を描いた在りし日の歌も思い出しました。在りし日の歌の主人公夫妻はもっと過酷な運命でしたが。『赤い風船』を思い出した方もきっといらっしゃるでしょうね。私も思い出しました。
シリアスな話なのですがユーモアも散りばめられていて和めるシーンもあります。自分が印象的だったのは風船に纏わるエピソード。夫妻の息子たちがコンドームを風船にして遊んでいてそれが元で夫と村人の取っ組み合いのケンカになったのです。やりあう大人たちを見ている息子たちはなす術が無く、只笛(息子たちが友だちの笛をコンドーム風船と物々交換したもの)を吹き続けるしかありませんでした。笑ってしまうのですが反面涙が出そうなシーンでした。
妻の妹も印象的でした。妹は尼僧になったのですが過去の恋人への想いを断ち切れていませんでした。その象徴が過去の恋人と偶然再会し、その時に渡された彼が書いた本。内容は二人の過去を書いたものでした。妹はその本に固執します。それを見ていた姉は本を燃やしてしまいます。妹は焼け焦げた本を尚も大事にします。そういう描写が如何にも小説的だと思いました。
妹は傷ついた末に尼僧になった。姉は現実の苦しさから私も尼僧になろうかしらと言う。尼僧になれば悩みが無くなるでしょうと。something never changeだなあと思ってしまいました😞
美しい映像が沢山ありますが私が特に好きなのは終盤自宅の窓ガラスに映る蒼い風景です。しみじみと美しかったです。
主要キャスト以外は全て一般の方だそうです。
役者以外の方も皆さんいい味出していました。
ヒューマンドラマ派の方にお勧めします。
★★★★★★★★