私の家には奴隷がいた アレックス・ティゾン
- 2022/04/27
- 22:06

祖父が母親に18歳の少女を贈った日から、彼女は奴隷として一生を過ごすことになった──。
米「アトランティック」誌が掲載を決めたその日に、57歳の若さで突然死したピュリッツァー賞ジャーナリスト、アレックス・ティゾンが遺した大型手記、驚愕の全訳。
米「アトランティック」誌が掲載を決めたその日に、57歳の若さで突然死したピュリッツァー賞ジャーナリスト、アレックス・ティゾンが遺した大型手記、驚愕の全訳。
クーリエ・ジャポンより
存在を知りませんでしたがたまたまネットで見かけて読んだらあまりにも興味深くて。しかし途中までは無料で読めるのですが、全部読むにはプレミアム会員にならねばならなかったので最後まで読みたかったので契約してしまいました😅
著書の家族に56年間仕えたフィリピン人女性(家族は彼女をロラと呼んでいました)について書かれた手記です。
☆あらすじ☆
(☆★ネタバレ注意★☆)
ロラさんは18歳の時に著者宅へ来ました。手記の内容によれば彼女は著者の祖父から娘(著者の母)にプレゼントとして贈られたのです。以来彼女は56年間母夫妻に苛められ、こき使われて生きてきました。ロラさんには自分の部屋も賃金もありませんでした。食事は余り物。お休みも無し。国籍も。著者の記憶の中のロラさんは部屋の角で洗濯物に囲まれて寝ていました。著者の両親は子どもたちの育児はロラさんに丸投げでした。子どもたちは甲斐甲斐しく世話をしてくれたロラさんが好きでした。それを母は「私から子どもたちを奪った」と恨んでいました。ロラさんの故郷の親族が病に倒れた時著者の両親は援助もしなかったしロラさんを故郷に返してあげることもしませんでした。それでもロラさんは逃げ出すこともせず(彼女には行き場が無かったので)最後は病気の著者のお母さんの介護をし看取りました。
晩年ロラさんはティゾン宅で暮らし、自分の部屋とお金も与えられましたが長年の習性からか家事をし続けました。著者が「何もしなくていいんだよ。リラックスして」と言っても。ロラさんは時間をかけてガーデニングをしたりソファに座ってテレビを見て楽しめる様になりました。それを見て著者は良い感じだと喜びました。
ロラさんは晩年一度故郷に帰ってみましたが、全てが変わり果てており、ここは私の居場所ではないと米に留まることを選びました。その後彼女が故郷に帰ったのは遺灰になってからでした(著者の手によって)。享年86。
ざっとですがこの様なお話しでした。
まず思ったのはティゾンの文章が上手いこと。分かりやすい言葉で状況、感情がストレートに伝わる。流石ピューリッツァー賞作家ですね。
これが現代のお話しだと思うと驚愕しますが、これが現実なのだなと。つい最近まで(おそらく現代も)貧困家庭の子どもたちは物の様に扱われてきた。ロラさんの実家は貧困で、ロラさんはふた回り以上年上のちょっとお金がある人のところに嫁がされそうになっていたところを目敏い著者の祖父が奴隷としてロラさんを引き取った。祖父とロラさんの両親の間でどの様な話をされたのかは書かれていませんでしたが、毎月仕送りするということになっていたのだと思います。ロラさんには寝る場所と食べ物には困らないと巧みに誘った様です。その時からロラさんには行き場が無かったのですね。貧困とは悲しいものです。著者の家庭もある意味崩壊しましたが、きちんとした教育を受けさせてもらえたのでジャーナリストとして身を立てられたし、自分達の面倒を見てくれる人もいた。本当に世の中は不公平だと思う話でした。
この話を読んで思い出した話がありました。
ある奴隷少女に起こった出来事です。奴隷だった女性ハリエット・アンが書いた実話です。19世紀の話なので時代は違いますが、これも人が物の様に扱われている話でした。特に印象的だったのが、ハリエットが雇い主からの性的虐待を避ける一心で別の男性に頼んでその男性の子どもを生みました。女の子が産まれましたがその女の子は父親から他の人に贈られたのです。ロラさんがティゾンのお母さんに贈られた様に。ハリエットが娘と暮らせるように娘に会いに行った時、その家の女性がハリエットに言った言葉が忘れられません。「ご存じでしょうけどこの娘は私が○○氏からもらったんです。成長したら私の娘の良い待女になると思いますわ」😮😮完全に物なんですよね。私は奴隷制度についてはよく知りませんが、この本を読んで奴隷とその家族は自らは決して自由になれないということを知りました。日本の昔の女郎の様に誰かがお金を出して身請けしてくれないとならないのです。それが実の身内でもです。本当に変な話ですよね。なので逃亡する人もいて、ハリエットの息子も行方不明になり生き別れになりました。
こちらに本作へのリンク先があります。Atlanticの英文の方は無料で読めるみたいです。
Wikiに書かれているティゾンへの世間の反応(賛否)については、当事者でなければ分からないことが多いのかなとは思いますが、普通に考えて56年間というのはあまりにも長すぎるので、もっと早く解放してあげてほしかったと思いました。
私がとてもドラマチックと言うか何とも言えないと思ったのは、本作がAtlanticに掲載が決定した日にティゾンが亡くなったことです。57歳という若さで。事実は小説より奇なりとはこういうことを言うのかなと。
ノンフィクションとしては忘れられない作品になりました。
機会があれば是非読んで頂きたいです。
晩年のロラさんをユン・ヨジョンさん主演で映画化してほしいと思いましたが、ロラさんはフィリピンの方ですのでフィリピンの方が主演するべきですね。