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すみだ川 永井荷風

NHK第2ラジオ、朗読の時間で聞きました


☆内容☆

明治から昭和にかけて長く活躍した文学者、永井荷風の小説。

お豊には大学を出し月給取りにさせたいと思う中学の長吉という息子がいた。しかし彼は今、幼馴染みの恋人、お糸が芸者になり身も心も自分から離れていくのを感じ悩んでいる。子供の頃、三味線を習うといいと言ってくれた伯父、俳諧師羅月もまた、恋の悩みがあったのではないかと思い出す。そんな折、街を徘徊しているとある浄瑠璃に惹きつけられる。

青空文庫の作品解説より


永井荷風の作品が表現するいくつものテーマの一つは、江戸への共感、郷愁である。アメリカ、フランスにおよそ5年滞在し、「あめりか物語」、「ふらんす物語」を著した荷風は、この外遊により、西洋の精神・思想を吸収した。同時に、西洋と日本の季節、風土、伝統の違いを実感し、より日本的なるもの、わけても、中学のころより親しんできた江戸への思いを強くする。帰国してすぐ、江戸への追憶、郷愁の思いにあふれた「すみだ川」を書いている。帰国1年後の1909年、荷風32歳の時である。 「生れた過去の東京を再現させようと思って、人物と背景とを隅田川の両岸に配した」(荷風)。 平成17年に制作された映画「ALWAYS三丁目の夕日」が、過ぎ去った昭和をなつかしむ物語ならば、およそ100年前に書かれたこの作品は、江戸の面影を色濃く残す隅田川界隈を舞台に、そこに住み、昔からの暮らしを守る人たちに共感し、消えてゆく景色と時代をなつかしむ物語である。

朗読の時間オフィシャルウェブサイトより





画像はネットからお借りしました
隅田川ではないらしいですが?浅草界隈らしいです

浅草と言えば劇中にお豊が長吉のことで悩んで雷門にお詣りするシーンが出てきました



一言で言って何て凄い描写力なのかと感動
☆☆(@_@)☆☆風景描写、心理描写共に見事です。流石に文化勲章を受章する人は違いますね。描かれている当時のすみだ川界隈の風景、市井の様子が緻密な描写によってありありと目に浮かぶ様でした


特に長吉がお糸がもうすぐ芸者になる前のある晩に待ち合わせをした川のほとりで月を見上げて佇み、もうすぐ違う世界に行ってしまうお糸を想って感傷に耽る光景と後に長吉がその時の月を思い起こすシーンが素晴らしかった。


話がちょっとそれますけど風景描写と言えば先日林真理子さんがラジオ深夜便に出ていた時に松本清張さんの風景描写力を絶賛していて清張さんが今でもとても人気があるのはそれによるものだと思うと言っていました。御自身は私は心理的なものは得意と思うけれど風景描写は苦手ですと。なるほどねーと思いながら聞き入ってしまいました。


すみだ川は心理描写も秀逸だと思いました。
それぞれの人物の気持ちがよく伝わります。
特に長吉の純粋さ、若さ故の苦悩は胸が痛くなりました。

ふと立ち寄った芝居で遊女と情夫が心中するストーリーに長吉は心酔します。
心中できる状況を羨み心中できる相手がいることを心底羨む。

(T-T)生前永井荷風はずっと芸者とつきあっていてそれを親族が良く思わず絶縁になったりした様なのでそういう自身の気持ちを投影したのかなと。泉鏡花も芸者さんと結婚したけど師匠の尾崎紅葉に芸者とつきあっていたことを咎められていたという話を思い出した。当時はそういう時代だった
のですね。

それと「作家にならなければ家庭を持ち人の親になって普通の人生を送れたかもしれない」と言ってたそうなので長吉が月給取りではない道を望むのも自身の投影なのだなと



私も息子の母なのでお豊の気持ちも分かります。まぁお豊は頑なだけれど母子家庭というのもあるでしょうね。お豊が観音様にお詣りして御神籤を見ているシーンはお豊の溜め息が聞こえるようです

でも長吉は勉学に励む気は毛頭無くて
(-_-)


長吉の叔父の俳諧師羅月は妹(お豊)と甥(長吉)の板挟みになって苦しみます。昔放蕩を尽くした羅月は妹の手前自分の気持ちとは裏腹に長吉に尤もらしいことを言うのですがあることをきっかけに目から鱗が落ち長吉の気持ちを理解します。

そこまでの展開の仕方が取って付けたところが全く無く実に上手いし納得がいきました。

そしてこれからどうなるんだろう⁉というところで終わるのも絶妙でした。

とても面白かったので続きが見たいと思ってしまいました。長吉の進路、お糸との未来。。。気になります❗


長吉とお糸を見ていたら樋口一葉たけくらべの美富利と信如を思い出しました。美富利は遊女になることが、信如は僧侶になるのが運命だった。子供の時はすれ違いはあったがそれでもまだ近くにいた。楽しいこともあった。大人になったら(昔は早く大人にならなければならなかったから)もうお互いの人生が交差することはおそらく二度と<無い。(泣)

お糸は早々と芸者の道を進み長吉は立ち止まっていたのがなんとも切ないと共に愛しかった

長吉の苦しみを見ていると何故か森田公一とトップギャランの『青春時代』が頭をぐるぐる回ってしまいました。


二人はもはや美しい季節は過ぎてしまったか

あなたは少女の時を過ぎ 愛に悲しむ人になる


美しい時が過ぎるのは昔は今よりずっと速かったのかもしれませんね


それと番組の解説の『ALWAYS3丁目の夕日』との対比は上手いこと言うなあと思いました。

>「生れた過去の東京を再現させようと思って、人物と背景とを隅田川の両岸に配した」(荷風)。

ということはこれは執筆当時のそのままの風景ではなく過去を再現したと言うところが興味深かったです。
筆力のある人にかかるとこうも鮮やかに再現されるのだなと。




コメント

No title

ギャラさん


初めまして。ご訪問、コメントありがとうございます✨

これ本当にいい小説ですよね。とても心に残りました。

春色梅児誉美を青空文庫で読もうと思いましたが何と!デジタル化された文字では無くて底本?を写真に撮った感じの「画像」?でしかも文字が不鮮明なので諦めました。
Amazonを見たら本があったのでちゃんと読みたかったらお金を出して本を買いましょうということですねm(_ _)m
でも青空文庫でああいうのをはじめてみたのでびっくりしました

写真を見て今戸の位置が分かるって凄いですね❗もしや江戸っ子でいらっしゃるのでしょうか
私は地理に暗いので(都内も全く分かりません)凄いなあと思いました


因みに3丁目の夕陽は大好きです
特にお母さんがセーターに植えつけた魔法が感動的です

読書感想文の記事は興味を示してくれる人が少ないので嬉しかったです☺

映画の記事も書いていますので是非♥

No title

はじめまして。
「三丁目の夕日」で検索していたら目につきました。
「すみだ川」は好きな作品です。
荷風は江戸文化への憧憬があります。作品の中にも為永春水の「梅暦」を思い出すくだりがあって失われていく江戸の情景を惜しんでいます。しかし、今はもう、明治も失われてしまいましたね。
写真の上流がにあるのが今戸なんです。

No title

りゅうちゃん

ありがとうごじゃいましゅ

No title

かみえるしゃんのお話しをしみじみと拝読させていただきました。
想像して切なくなったり、風景を連想したりしてしまいました(^-^)
ないすりん☆

No title

ゴンさん

私伊豆の踊り子読んでないんですよ
いつか読めたら読みたいです
友和さんと百恵ちゃんで映画化されたんでしたよね?

最近川端康成が若かりし頃ぞっこんだったけれど女性の事情で結ばれなかったカフェの女給さんとの2ショット写真とその女性に宛てた川端康成の恋文を見て胸キュンでした

津川さんの映画のタイトルは何でしょうか?機会があれば見てみたいです

百年位前に生まれたかったなと思うことあります

No title

かみえるさん。こんばんは。今日もお疲れ様でしたm(__)m昔は芸者との恋はご法度だったのかな?川端康成の伊豆の踊り子や学生に恋心を描く少女の話しやこの永井荷風さんの作品のように人のつながりや恋心を描いた作品は、なぜか引き込まれますね。。。それは時代の流れにより、引き裂かれても心がつながっているから人を惹き付けるものかな?今の時代には考えられないことが当時はありましたが、そうした先代の方々の思想や生き方が受け継がれ今の時代につながっていると思うとスゴいというか偉大な感じを受け取ってしまいます。永井荷風さんの作品が映画化されたのもありましたね?津川さんが出てたように思いましたが?

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